2020年度てんかん診療実績

2020年4月~2021年3月、開院から1年間の当院におけるてんかん診療実績を公開致します。

2020年度上半期の実績は以前の記事をご参照ください。

てんかん分類

2020年4月~2021年3月の間に当院を受診された「てんかん」の病名のつく患者様の年齢分布を図1に、てんかん分類別に表1にお示しします。てんかん分類についての詳細はてんかんの分類をご一読ください。

小児の患者様が多いのですが、2020年度上半期に比べると6~10歳の方の比率が33.9%→25.8%と減少し、その分20歳以上の方が11.6%→21.6%と増加しています。

総合病院小児科からの成人期移行や、高校生以上での新規発症の方の治療開始や継続治療の依頼が増えてきており、20歳以上の中でも特に20歳代が多い印象です。

図1 当院に通院中のてんかん患者の年齢分布

前回のまとめと比較すると素因性焦点てんかんが45.5→36.3%、素因性全般てんかん23.2→32.6%、構造的焦点てんかん17.0→13.2%と素因性全般てんかんが増加しています。年齢分布での考察と同様に小児科からの成人期移行の方や若年発症の特発性全般てんかんの患者様が増加したことが比率に影響したものと考えられます。

一方で、素因性全般焦点合併てんかんは遺伝子異常を伴う難治てんかんでほぼ発達性てんかん性脳症の患者様に一致しておりますが、8.0→5.8%とあまり変化はありません。「気軽に受診しやすい専門外来」として、てんかんセンターや総合病院より難治で発作回数の多い患者様をご紹介頂けることが増えてきております。日常の細かな内服調整は当院で対応させて頂き、入院が必要な場合には紹介元の病院にお願いする形でしっかりと連携を取らせて頂いております。

素因性構造的感染性代謝性免疫性病因不明
全般32.6%0.5%0.5%0.0%0.0%0.5%
焦点36.3%13.2%0.0%0.0%1.1%1.1%
全般焦点合併5.8%1.6%0.5%0.5%0.0%0.0%
病型不明2.6%0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%
表1 てんかん分類ごとの患者比率

てんかん症候群

2020年4月~2021年3月に当院を受診された患者様の症候群分類を図2にお示しします。引き続き全てんかん患者のうち約半数に対して症候群分類をすることが可能でした。

最も多い特発性全般てんかんは16.1%→18.9%とさらに増加し、その分2番目に多いローランドてんかんが14.3%→10.5%と比率としては減少しています。発達性てんかん性脳症は引き続き3番目に多く、8.0%→7.4%と横ばいです。前述のように難治の患者様を多くご紹介頂いている当院の特徴と言えます。

なお、小児欠神てんかんは発症年齢が就学前後と低年齢でローランドてんかんパナイトポーラス症候群に近く、その他の思春期発症の特発性全般てんかんと異なり成人移行することも少ないことから当院では区別して分類しております。

図2 てんかん症候群分類の内訳

次に、症候群のうち特発性全般てんかん(小児欠神てんかんを除く)の内訳を図3に、発達性てんかん性脳症の内訳を図4に示します。

特発性全般てんかんの内訳は若年ミオクロニーてんかんと覚醒時大発作てんかんが並んで多く、合わせて約8割を占めており前回と概ね変わりありませんでした。

図3 特発性全般てんかんの内訳

発達性てんかん性脳症の内訳も概ね前回と変わりありません。ウエスト症候群に関しては当院に継続して通院して頂いている方のみならず、当院を初診され新たに診断し高次医療機関にご紹介した患者様4名(うち1名はEpileptic spasms without hypsarrhythmia)を含むため、集計上はウエスト症候群が多くなっております。

ドラベ症候群の方は全例SCN1A遺伝子を含む変異を有する方、その他の方はSCN2ASCN8Aなどの遺伝子異常を伴う発達性てんかん性脳症の患者様となっております。

図4 発達性てんかん性脳症の内訳

薬物治療

現在内服中の抗てんかん薬の薬剤数の内訳を図5に示します。

1剤のみは約7割と変わりありませんが、3剤以上が20.9%→16.9%と減少し、2剤の方が9.3%→16.2%と増えております。

1剤ではコントロールできない比較的難治の方の数が増えたこと、3剤以上でご紹介頂いた患者様の内服を調整して2剤以内に整理できている患者様が増えていることが理由として考えられます。

図5 内服薬剤数の内訳

重複を含む抗てんかん薬の内訳を図6に示します。レベチラセタム(LEV)が約半数と変わらず最多でした。次いで古くから全般てんかんの第一選択薬であるバルプロ酸ナトリウム(VPA)、同率3位は焦点てんかんの第一選択薬であるカルバマゼピン(CBZ)と、新規抗てんかん薬であるラモトリギン(LTG)およびラコサミド(LCM)が並んでいます。その次に同じく新規抗てんかん薬であるペランパネル(PER)が登場しており、新規抗てんかん薬の割合が増えてきていることがうかがえます。

当院では難治てんかんの方も比較的多いため、ドラベ症候群専用薬であるスティリペントール(STP)やレノックス・ガストー症候群専用薬であるルフィナミド(RFN)も一定の割合を占めています。

*薬剤名はすべて商品名ではなく一般名で記載しております。

図6 抗てんかん薬の内訳

開院してちょうど1年の節目を迎え、当院を受診されたてんかん患者様の特徴をまとめてみました。

今後当院への受診を検討されている患者様やご家族様、患者様のご紹介をご検討頂いている医療機関様の参考になりますと幸いです。

今後は1年おきに年度の情報をまとめて公開していく予定ですのでどうぞよろしくお願い致します。